第41回 H28年の教科書事情

日本には、複数の教科書会社があることは、以前お話ししました。
どの教科書も、学習指導要領を元に作成し、国の検定を受けているので、大差ないのですが、
それぞれの出版社ごとに、特徴や癖があるのが現状です。

特に、英語や国語は、中の本文が違っているので、教科書の違いは大きな違いと言えるでしょう。
また、社会の教科書は、毎年、どの教科書が採用されたとニュースになるほどです。

先日、教科書展示行ってきたので、その様子も踏まえながら、
今回は、現在の教科書事情をまとめてみたいと思います。


中学校の教科書(全部の教科書が2冊ずつ展示されていた)

どの出版社が、どの教科を出版しているの?

世の中には、どんな出版社があって、
どの教科の教科書を出版しているんだろう?と言うのが、1つ目の疑問です。
文部科学省のHPで、教科書目録というものが公開されており、それを見ると、
どの教科の教科書をどの出版社が出版しているのかわかります。

もちろん、教科書展示に行くと、全部手にとって見ることができます。

せっかくなので、以下にまとめます。

国語 社会 数学 理科 音楽 美術 保体 技家 英語
国語 書写 地理 地図 歴史 公民
東京書籍

11
教育出版



9
学校図書







5
日本文教出版







5
帝国書院








4
光村図書出版








4
大日本図書









3
三省堂









3
開隆堂出版









3
数研出版











1
清水書院










2
啓林館










2
育鵬社










2
学び社











1
学習研究社











1
教育芸術社











1
教育図書











1
自由社










2
大修館











1
5 5 4 2 8 7 7 5 2 3 4 3 6

中学校の場合、計19社の教科書会社があります。

東京書籍が最多の11教科。これでも、音楽と美術の教科書は出版しておらず、
コンプリートしている出版社はありません。

音楽の2社が光ります。なぜ、音楽は2社しか出版していないのでしょうか?
使う中学生の数は、他の教科と同じはずなのですが。

それ以外にも、多くの出版社が参入している教科もあれば、そうでない教科もあります。
社会の歴史は最多の8社。同じ社会でも、地図帳は2社。
この違いもよくわかりません。

出版社別に見ても、社会の歴史1種類しか出版していないところもあれば、
ほとんどの教科の教科書を出版している出版社もあります。

社会以外の5教科の教科書

国語(各学年1冊ずつ)

数学(各学年1冊ずつ)

理科(各学年1冊ずつ)

英語(各学年1冊ずつ)

社会科の教科書

地図帳

地理

歴史

公民

技能4教科の教科書


保健体育

技術家庭科(技術と家庭科の2冊)

音楽(音楽3冊と器楽1冊の計4冊)

美術

社会は不思議な教科

社会は特殊な教科で、高校の教員免許も特殊です。

他の教科は、国語、数学、理科、英語と、それぞれの教科の免許証です。
国語は、古文、現代文と分かれていますし、
理科は、物理、化学、生物、地学と分かれていますが、1つの免許で、全てを教えられます。

しかし、社会は、地理・歴史の免許と公民の免許に分かれています。
日本史の先生は、政治・経済の授業ができないかもしれません。
逆に、倫理の先生は、地理の授業をすることができないかもしれません。

ただ、普通、高校の社会の先生は、両方の免許を持っているので、
両方教えられる人がほとんどです。

さて、そんなことが関係あるのかないのか、社会の教科書は特殊な状況にあります。

まず、社会科として教科書を選ぶのではなく、
地理、歴史、公民と別々に教科書を選ぶことになります。

歴史の教科書は、最多の8社が出版していますが、公民の教科書は7社、地理は4社です。
地図帳に至っては、2社です。

社会の教科書をそろえているのは、帝国書院と東京書籍の2社だけ。
地図帳を除いたとしても、教育出版、日本文教出版を加えたたったの4社。

そもそも、地理の教科書が少なすぎるのでしょう。

なんで?

音楽もそうなんですが、中学生に配布する教科書の総数は、どの教科も等しいはずです。
ですが、参入している出版社の数に、ここまでの差があるのは、ちょっと違和感があります。

単純に、技能4教科、特に音楽はもうからないのでしょうか?
同じ理由で、地図帳や地理の教科書は、出版しても、もうからないのでしょうか?

確かに、地図帳や音楽の教科書は、版権の問題で、出版するのが面倒臭そうです。
でも、版権がらみは、国語や歴史でも言えそうです。

版権のしがらみが少ないのは、理数教科です。
しかし、数学の出版社は7社と多いですが、理科は5社と別段多くありません。

または、単純に、検定に合格できなかったんでしょうか?
でも、仮にそうだとしても、修正して出版すると思いますが。謎です。

あるいは、以前は出版していたけれど、シェアが獲得できず、撤退してしまったのでしょうか?
シェアの獲得は調べられるかわかりませんが、
撤退、参入については調べられるので、調べてみれば、面白いかも。

出版社が違うと、何か影響があるの?

第14回でもお話ししたので、被る内容は割愛するとして、他にも、次のような影響があります。

例えば、S-Lab御用達の教育開発出版さんが出版している
keyワークという教科書完全準拠の問題集があります。

英語と国語、地理は、全ての教科書に対応した問題集が出版されていますが、
理科は東京書籍、啓林館、大日本出版の3社分しか、
教科書準拠の問題集が出版されていません。
数学に関しては、東京書籍、啓林館の2社のみです。

つまり、自分の学校が、教育出版や学校図書の理科の教科書を使っていると、
自分の教科書に準拠した問題集が買えないということになります。

社会の歴史、公民に関しても、同じことが言えます。


数学の教科書ガイド
(啓林館準拠版)

また、教科書準拠の参考書と言えば、教科書ガイドでしょう。
ほとんどの教科書の教科書ガイドが出版されていますが、
こちらもマイナーな教科書の教科書ガイドは出版されていないようです。

出版が確認できなかったのは、教育出版の理科、
社会歴史の学び社、自由社です。
(確認できなかっただけで、出版されているかもしれません)

こういう話は、学校で利用する副教材でも言えて、
学校で、問題集や資料集を購入すると思いますが、
その時の選定にも、影響がでてきます。

必ずしも、準拠した問題集や参考書でなければいけないという訳ではありませんが、
以前からお話ししているように、教科書には、出版社ごとに、特徴やクセがあるので、
問題集の解答が微妙に教科書と違っていたり、出題の順番が教科書と違っていたりします。

なぜ、こういうことが起こるのかというと、もうからないからです。
マイナーな教科書は、使っている中学生の絶対数が少ないので、売れません。

中学生の1%がその問題集を買ってくれるとします。
例えば、100万人の中学生が利用している場合、その1%ですから、1万冊の問題集が売れます。
しかし、1万人の中学生しか利用していない教科書の教科書準拠問題集だと、
100冊しか売れない計算になります。
編集費用は同じですから、マイナーな教科書の準拠問題集は、金になりません。
というか、赤字になる可能性もあるわけです。

つまり、マイナーな教科書を使われると、参考書や問題集が買えない、
あるいは、選択肢が非常に狭まるということになります。

個人的に思うこと

個人的に思うのは、教科書が複数の出版社にまたがるのは、いかがなものかと思っています。

もちろん、人には得手不得手があります。それは、出版社という会社でも同じです。
理科の教科書を作るのが、得意な出版社もあれば、
国語の教科書を作るのが得意な出版社もあるでしょう。
逆に、使い手として、国語の教科書はA社が良いけれど、
数学の教科書はB社が良いということもあるでしょう。

しかし、以前お話しした、教科の関連性ということを考えると、
それぞれの教科書が、それぞれの教科書に、リンクを貼れば、より理解しやすくなるはずです。

実際、最近の教科書は、「○年生の教科書○ページを確認しよう!!」とか、
「小学校○年生の教科書をチェック!」的な表現が見られます。
過去の教科書にリンクを貼っている訳です。しかし、現状としては、同教科のみです。

中学校の良いところでもあるし、悪いところでもあるのは、教科に専門性が出ることです。

いくら教科に専門性が出ても、勉強するのは同じ人です。

また、それぞれの教科には、関連性があることは第33回でお話ししました。

同じことを複数の教科で何度も勉強する必要もなければ、
よく似ていても少し違う場合は、その違いまで勉強すれば、混乱することもありません。

しかし、現在の中学校では、こういうことが、ほとんど無視されています。
それぞれの教科担当が、人は人、自分は自分と、他教科を無視して、
自分の教科だけを教えているのが現状です。
これでは、生徒は混乱して、いろんな教科が混じってしまいます。

つまり、他教科の教科書へのアプローチが教科書にあれば、言うことないのです。

ですから、なるべく、教科書の出版社をそろえるというのは、
1つの学習方法として、成り立つはずです。

しかし、現状は、各教科が好きに教科書を選び、
同じ社会なのに、地理と歴史で違う出版社を選んでいるのが現状です。

出版社にしても、歴史しか出版していない出版社が複数社あり、
また、全教科を出版している出版社がないのが現状です。

環境として、教科間のつながりを重視できないできません。

また、教科書がコロコロ変わることも問題です。
4年に1度変わるということは、その教科書で3年間勉強できる中学生は、2学年しかありません。

教科書にリンクを貼っても、そのほとんどは、リンク切れを起こします。

これでは、リンクを貼らない方が、マシです。

教科書1つ取っても、もっと、色々考えていかなければいけない・・・と思います。

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