第45回 消えた1分野・2分野

今回は、前回の改定により起こった理科の教科書1冊化について考えてみたいと思います。
先日行われた教科書展示で実物を見てきたので、感想を踏まえて、解説します。

無くなった1分野、2分野の教科書

文科省が出している理科の学習指導要領により、
理科は、昭和33年の指導要領より、1分野と2分野に分かれています。
ですので、ほとんどの方は、理科は1分野と2分野に分かれていて、
教科書も分かれていると思っていると思います。

しかし、それがそうでもなくなりそうな雰囲気です。

現行の指導要領でも、1分野と2分野に分かれているのですが、
今の指導要領に変わったH24年から、教科書が1冊に変わりました。
つまり、理科の教科書から、1分野の教科書2分野の教科書消滅しました。

代わりに、1年生の教科書、2年生の教科書、3年生の教科書として、3冊になりました。

教科書が、学年ごとに1冊になったため、
1冊に、1分野と2分野の単元が混在することになったのが今の理科の教科書です。

個人的には、1分野と2分野で教科書が分かれているのは、
嫌だったので、1冊になって良かったと思っています。

理由は、理科は理科で、1分野とか2分野とか関係ありません。
理科と言う教科でつながりを持って欲しいからです。
いくら、理科が独立型の教科であっても、単元と単元の間に関係がないわけではありません。
それぞれが、密接に関わり合っています。

しかし、教科書が分かれてしまうと、その関連性が、どうしても薄れてしまいます。
ノートまで1分野と2分野分けろという先生がいましたが、どうにもあれは支持できません。
もっと、単元間の関係性が、希薄に感じてしまいます。

2年生なんて、ちょうど、上巻と下巻にまたがる学年なので、
単元ごとに教科書が分かれていたわけです。
もう、何が何だか分からない状態です。

そして、教科書やノートが分かれるということは、
分野が変わると持ってくる道具も変わることになります。
もちろん、しっかりしている子は問題ありませんが、
そうでない子は、間違えたり、他分野をやっている数ヶ月の間失くしたり・・・と、
ロクなことがありません。

教員目線では、忘れてきた生徒を指導しなければならないですし、
生徒目線では、ウッカリで怒られる羽目になります。
もちろん、道具がないので、忘れた授業は、勉強になりません。
両方にとって、良いことが無い、まさに、「誰得?」な話です。

そんな「誰得?」状態が40年以上続いていたのですから、正気の沙汰とは思えません。

※中学校によっては、1分野と2分野で教員を変えて平行して学習する場合もあるのでなんとも言えません。

1分野と2分野すら消える

そもそも、1分野と2分野を分ける理由がイマイチ分かりませんが、
前回の改定教科書から、1分野と2分野の概念が無くなった教科書があります。


東京書籍の理科の教科書

例えば、今の東京書籍の1年生の教科書は、

単元1 植物の世界
単元2 身のまわりの物質
単元3 身のまわりの現象
単元4 大地の変化

という構成になっています。

教科書内を探しても、1分野・2分野という記述は見つからず(見つけられないだけかも…)、
分野に関係なく、教科書が編集されています。

従来、一般的に授業が行われていた順番に、単元が編集されています。
常識的に考えると、教科書の順番で勉強していくことになります。

このような編集方法を取っているのは、他に、大日本図書があります。

1分野と2分野に分かれている教科書も

一方で、本は1冊でも、中で、1分野と2分野を明確に分けている出版社もあります。
啓林館、学校図書、教育出版の3社です。


学校図書の理科の教科書

例えば、学校図書の1年生の教科書では、

A-1 身のまわりの物質
A-2 身のまわりの現象
B-1 植物の世界
B-1 変動する大地

となっています。

Aが1分野、Bが2分野です。
教科書にも、1分野・2分野の記述がはっきりと示されています。

まず、1分野の内容、次に、2分野の内容となっています。

こうなることで、1分野と2分野のどちらを先に学習するか、
学校単位で決めることが容易になる気はします。
しかし、同時に、1分野から学習しなければいけないような気にもなります。

現在の教科書は、完全に出版社によって、対応が2分しています。

全社同時に、教科書が1冊化したので、
1冊になった理由は、お上からの御達しであることは、まず間違いありません。

これは偏見ですが、
頭の固い古い人は、1分野と2分野に分かれていないと気に入らないことでしょう。

しかし、時代の流れとともに、変化に対応するしかありません。

1分野と2分野が無くなって、良いことあるの?

長所と短所は裏表と言います。
特徴をプラスにとらえると長所ですし、マイナスにとらえると短所になります。
ですから、1分野と2分野が分かれていないことの特徴が、
そのまま長所とはならないかもしれません。
ですから、良いこととは言い切れませんが、次のような特徴を上げることができます。

統一性が生まれる

理科は、独立型の教科なので、学習する順番は、自由に並び変えても大きな問題はありません。
実際、学校や教科書により、順番も様々です。
1分野から授業を始める学校、2分野から始める学校と、学校によって対応は違います。

教科書が1冊になり、教科書内の単元に通し番号が振られると、
教科書の順番通りに授業をしなくてはいけないような気がしてきます。
実際はそんなことはないのですが、何か、無言の圧力を感じます。

事実、教科書の順番が変わったことにより、授業の順番を教科書に合わせている学校は多いです。

その結果、授業の順番に統一性が生まれます。
塾業界としては、願ったり叶ったりで、
地域差、学校差が無くなると、塾運営はしやすくなります。

また、模試の範囲も設定しやすくなります。
現在、今治(八幡浜)だけ教科書が違うため、
県模試の理科の出題範囲の設定には苦労しているようです。

逆に言えば、独自性が無くなることになってしまいます。

理科を理科としてとらえる

理科は理科という1つの教科として捉えやすくなります。
教科書が2冊に分かれていたり、教科書内で1分野と2分野に分かれていると、
好き嫌い、得意不得意ができたときに、
「1分野だから…」とか「2分野だから…」と変なイメージを持ってしまいます。
1分野は理解をしなければいけないことが多いく、
2分野は覚えることが多いという特徴がありますが、
決して、2分野には理解する内容が無いわけではないですし、
1分野に覚えることが無いわけではありません。

理科は理科で、1分野とか2分野とか関係ないです。
しかし、下手に分けると、それぞれに関係が無いような気がして、
分野ごとの横断性をうすく感じてしまいます。
その結果、勉強の効率が下がってしまいます。
これは、各教科の横断性にも言えることで、それぞれに関係性を意識して、
学習に取り組むことにより効率を上げることができます。詳しくこちら

今後どうなる?

具体的な数字はわかりませんが、現在の理科の教科書のシェアは、
教科書最大手の東京書籍、理数教科書の啓林館
そして、大日本図書の3社が大部分を占めています。
教育出版学校図書は、マイナーな教科書です。

これは、各出版社が出している教科書準拠問題集や
参考書の出版状況を見れば、なんとなくわかります。
教科書準拠問題集、参考書と教科書の出版数に関しては、こちらを参照してください。

つまり、教科書会社の扱いは、1分野・2分野が分かれている方が優性ですが、
教科書のシェアから考えると、現在の中学生の少なくとも過半数は、
1分野、2分野のない教科書を使っていると考えられます。

このまま東京書籍、大日本図書が支持され続ければ、次の改定で、他社も追従するでしょうし、
逆に、啓林館や教育図書、学校図書がシェアを拡大するようなことがあれば、
東京書籍や大日本図書も1分野、2分野の表記をすることでしょう。

今後の動きに注目していきたいところです。

ところで、実際、授業をしていて、常に、もっとこうの方がいいな、こうした方がいいなという点はあります。
そういう点について、他の理科の先生と話したりもしていたのですが、
自分たちが、改善すべきだと考えた点を、東京書籍は、教科書の改定時に改善してきます。

つまり、自分たちのような比較的若い教員と、
同じ感覚を持った教科書会社が東京書籍だと思っています。

その東京書籍が、1分野、2分野を撤廃したのも、自分と同じ感覚を持っている証拠になります。

これから、1分野、2分野の撤廃が進むのか、やはり分かれたままなのか、
そして、それが良いことなのか、それとも良くないことなのか・・・
そんなことは、10年経ってみないとわかりませんが、今後の教科書会社の動きに注目です。

ところで、今治も以前は、東京書籍の教科書を使っていたにも関わらず、
前回の改定(1分野・2分野が消えたとき)から、東京書籍を使っていません。
真実はわかりませんが、頭の固い古い教員たちが、
1分野、2分野の分かれていることを理由に選んでいるのではないかと、思ってしまいます。
愛媛県の教科書採択状況はこちら

隣の芝生はあおいだけなら問題ないのですが、塾にある東京書籍の教科書を見た塾生は、
「東京書籍の方が良さそう」と言いいます。
老害と言われないよう、常に、子どもたちのことを第一に考えて決定して欲しいところです。

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